20万打企画 Vol,6









A bond of affection.

(no31.Her remarks set his face. の続き)









「それでは、どちらかが相手側のゴールにシュートを1本決めたら勝ち。それでいいですね?」

「あぁ」

「問題ないわ」

「でははじめます。…ピー!!」

光司郎の笛が開始を知らせる。先にボールをとったのは空だった。

「手加減しないでよ! されて勝っても嬉しくないわ」

「しねーよ、そんなの」

ひょいっとすぐさま太一は器用にボールを彼女の足から奪う。

しかし、それをゴールへと運ぶ前に再び空は太一からボールを奪った。

それが幾度となく、繰り返される。これといって決めになる場面はやってこず

ただ二人、必死にボールを取り合っていた。

しかしその姿は、真剣勝負をしている裏で楽しんでいるようにも見える。









「すごいですね。あの次代のサッカーチームの人たちがいたら見て固まりますよ」

始まった二人の試合を見ながら、光司郎は呟いた。

この試合に審判などいらない。二人の試合のルールは二人だ。

「お兄ちゃん、全然加減してない…」

不安になるヒカリ。その不安を取り除く、ことを優先せずタケルは真実を述べる。

「太一さんは勝つつもりだよ」

「そうですね。でなければ、意味がありませんから」

この試合の本当の意味を知っているのは、ふっかけた太一と光司郎とタケルのみ。

ヒカリとヤマトには理解ができなかった。









「まだ、気づきませんか? ヤマトさん」

「あぁ、謎だらけだ。太一が空にあんな態度を取ったこともなぞなら

空があんなに簡単に挑発に乗ったのも不思議でたまらない。

そして、それより何よりお前ら二人が太一たちを止めなかった理由がね」

「お兄ちゃん、鈍すぎるのは問題だよ?」

「なっ?!」

「でもタケル君、私も分からない」

弟に泣きつきそうな勢いのヤマトは放置し、ヒカリが割って入る。

「確かに空さんと同じ女性のヒカリさんには理解しがたいかもしれませんね」

「え?」

光司郎の言葉に、ヒカリは首をかしげる。









「太一さんが気にしてるのは、空さんが自分が女性だって自覚してないってことだよ」

タケルが二人の戦いを見ながらヒカリに教える。

二人は未だグラウンドを駆け回っていた。

二人とも名が通るほどだけはある。初心者が見ても綺麗なプレイをしていた。

しかし、ペースが乱れ始めるのは時間の問題だ。

どんなに基礎体力が他の人より良くても、空は紛れもなく女なのだ。









「最近、空さんが女子サッカー部で名を上げ始めたことは学校中で有名です」

詳しい説明を始めたのは、光司郎だった。

「うちの学校は基本的運動部…特に、サッカー部に力を入れているので

空さんが助っ人に入り、試合に勝つたびに彼女への入部勧誘はあったそうです」

同じ学校に通っているのに全く知らなかったヤマトは自分が少し恥ずかしくなった。

バンド以外のものにも少しは目を向けよう。









「そこで最近あがった提案が、2ヵ月後に行われる男女混合のサッカーの試合にうちの学校が参加する、というものです」

「男女混合?!」

珍しく素っ頓狂な声を上げたのはタケルだった。

「えぇ。当然、そのメンバーの中に強制的に空さんは含まれてます」

「なるほどな。それで太一のヤツ…」

「きっと空さんには口で伝えるよりも、この方が良いと思ったんでしょう。

同じサッカー好きとして、性別でそれを奪うというのは酷だと太一さんだってわかってるはずです」

誰よりも空とサッカーをすることを楽しんでいたのは太一なのだから。









「ダメ、なの? 空さんがその試合にでちゃ…」

いまいち納得のいかないヒカリがたずねる。

ここからはもう、男と女の考え方の違いだった。

「太一さんは、空さんにこれ以上怪我とかをしてほしくないんだよ」

「スポーツに怪我はつきものですから。

それに、男性と衝突してできる怪我なんて一歩間違えれば一生のこる傷になりかねませんし」

「そんな…」

同じ女として、やはりそれだけで好きなものを奪われてしまうのは納得いかない。

しかし、兄が空思ってこその行動をとっているといことを理解できないわけでもない。









「そもそも先ほどお話した混合試合は、チームに1人女子がいれば認められます。

どの学校も、1人…多くて3人までしか女性はいれていません」

「そんな中に大事な彼女を参加させられるわけ、ないよね」

「…うん」

納得したのかヒカリがうなづく。

その時、試合に変化が起きた。









「きゃっ!」

空が太一の強いボールを受けバランスを崩したのだ。

慌てて体を支えようと昨日怪我をした足に重心をかける、がその前に。









「あっ」

ピーーーーー!!!

光司郎が笛を勢いよく吹いた。

太一が決めたボールが見事にゴールに決まったのだ。

その彼は、怪我した足に負担をかけようとした空を宙から浮かせている。









「俺の勝ちだ、空」

「な?! ハンドじゃない、こんなの!」

「お前だってもう分かってるだろ? 俺と、空の力の差」

「…!」

追いつける日が来るとは思っていなかった。

どんなに練習を重ねても、太一についていくのが精一杯だった。

本当は、試合する前から気づいていた。彼に勝てないことなんて。

「空の負けだ」

「…っ」

空は支えてくれていた太一の手を振り払い、怪我した足をひょこひょこさせながら

女子サッカー部の部室へと向かっていく。

太一はそんな彼女を呼び止めることはせず、ただ背中を見守っていた。









「お疲れ様です、太一さん」

「あぁ、ありがとな、光司郎」

光司郎からタオルを受け取る。汗を拭きながら、太一は妹の強い視線を感じた。









「ヒカリ?」

「お兄ちゃん、空さん…」

このまま、喧嘩したままなんてことはないよね?

不安が隠せない瞳でヒカリは太一を見上げた。

「心配すんな」

宥めるように、太一はヒカリの頭をなでる。









俺たちツートップは同じフィールドで試合ができなくなったくらいじゃ崩れねぇよ









「しかし太一さん。本当にどうするつもりですか?」

帰り道、一度小学校に戻ると言って分かれたタケルとヒカリ。

バンドがあるからと貸しスタジオへ向かっていったヤマト。

そして一緒に帰宅する光司郎と太一。

「どうするって?」

「空さんのことです。結局、太一さん大事なことを伝えてませんよ」

彼女の姿をその後見てはいない。

「それは、これからだろ」

「…本当に長引くような喧嘩はしないでくださいね」

「わーかってるって」

本当に分かってるのだろうか、と光司郎は疑いのまなざしを太一に向ける。

しかし、彼しか彼女を説得できる人はいないのだ。

それが分かっているので、それ以上光司郎は何も言わなかった。









その日の晩。

「ちょっとボール蹴ってくる」

「程ほどにするのよ」

「はーい」

太一はボールを持たずに、家から出て行った。

向かった先はアパートのすぐ下にある小さな公園。

目的は、そこでボールを蹴っている彼女に会うこと。









「やっぱりここにいた」

「…太一」

空も彼の姿に気づき、振り返った。

昼間と同じ人とは思えないほど、太一は笑顔を浮かべている。

しかしこれが普段の彼なのだ。









「空、パス」

くいくいっと足でボールを求める。

空は小さく文句を言いながら、彼に軽くボールをパスした。

「ボールも持たずにこんな時間に何しにきたのよ」

「空に逢いに来たに決まってるだろ?」

パスしてもらったボールで太一はリフティングを始める。

空は数秒その姿を見つめていたが、やがてゆっくりと口を開いた。









「ごめんなさい」

「ん?」

「太一がどうしてあんなこと言ったのか考えもしないでけんか腰になって」

あの後、空は全てを女子サッカー部の顧問から聞いた。

混同サッカー試合のことも、それに入部させようと学校側が考えていることも。

「ちゃんと断ってきた。もう、助っ人も引き受けないから」

「…そっか」

ボールを見ながら太一は返事を返す。

空は気まずくなってうつむいた。









「空、パス」

「え?」

太一から戻ってきたボールは、綺麗に空の足に収まる。

それは彼のコントロールのよさと、彼女の条件反射のよさを証明する。

「サッカー、したくなったらいつでも言えよ。俺が相手になるからさ」

笑いながら太一は言った。

「俺は絶対に空に怪我なんてさせねぇ。絶対だ」

笑顔の中に、昼間と同じ強さを秘めている瞳。

空は少しだけためらったあと、ボールを蹴り返した。









「太一、また強くなったね。今日のボールビックリした」

「そーか? 空もスピード凄かったじゃねぇか」

一定のペースで、空と太一の間をボールが転がる。

「そりゃ、誰かさんと最強のツートップと呼ばれたくらいですからね」

「あぁ、そうだな」

懐かしい話。過去の話。

あのまま…性別など気にせず、ただ無邪気に好きなことができたあの頃に戻れたら…

かなわない夢だけれど。









「太一とやるのなんて久々だったわね」

「あぁ。本当はさ、すぐに決めて終わらせるつもりだったんだ」

けれど、それはできなかった。

本来の目的を忘れるほど、空との試合は楽しくてたまらなかった。

そう言うと「私もだよ」と空は笑いながらボールを返してきた。









「結局俺たちサッカーが好きなんだよな」

「うん」

「…ごめんな」

好きなもの、無理やり奪ってごめんな。

言葉足らずの太一だけれど、それはしっかりと空に伝わっていた。









「ううん。大丈夫よ。だって太一が、いつでも相手してくれるんでしょ?」

空の返した言葉に太一は目をパチクリさせる。

そして満面の笑みを浮かべた。

「あったりめーだ。いつでも受けてたつぜ」

「ならそれだけで充分」

太一とサッカーしてるときが1番楽しいから。

空の本音が、太一は嬉しかった。自分も同じだ、と気持ちを告げる。

受け取ったボールを手に持ち、空へと近づく。









「太一?」

「もう、試合でるなよ。聞くたびに俺、心臓がつぶれそうなくらい怖ぇんだ」

知らないまに傷ついていないだろうか。

学校の名誉のために、と大人たちにいいように使われてないだろうか。

「それから、こんな時間に1人で外に出るな。危ねぇだろうが」

こつん、と空のおでこを拳でたたく。

「ちゃんと俺のこと、呼べよ」

「太一…」

空が何か言い返そうとしたとき

太一の手からサッカーボールが零れ落ちた。

それを彼は右足で受け、天高くへと蹴り飛ばす。まっすぐ直線に。









「え? あ…」

驚いてボールを追っていた視線は、太一へと向けられる。

彼の強くてたくましい腕が空を抱きしめた。

そして何をするまもなく、彼は空に口付けた。









こつん、ことん、ころん

天高く舞ったボールは数秒で地へと戻ってきた。

一度だけ太一の左足に受け止められ、圧力を失ったボールが公園に転がる。

「…もう。外は嫌だって言ってるじゃない」

「誰もみてねぇよ」

抱きしめている腕を離そうとはしない。

空も無理やり離れようとはしなかった。









「本当に怖いんだ。空のこと考えてると落ちつかねぇ。好きすぎて、不安ばっか浮かんでくる」

恋なんて、したことがなかった。

初めての感情に戸惑ってばかりの太一。

だから上手くいかない。どうすればよいのか、わからない。

不器用でも、ぶっきらぼうでも、自分で考え抜いた言葉を行動を

そしてまっすぐな君への愛を伝えることしかできないのだ。

それが1番難しいのだけれど。









「うん」

それは太一だけではない。空だって同じだ。

「私も、怖いよ」

いつか終わりを迎えてしまうのではないかと。

太一が離れてしまう日がくるのではないかと。

考えれば考えるほど怖くなる。夜も眠れないほど、不安になる。

「それがきっと、恋なんだね」









“愛”なんだろうね。









「ゆっくり、俺たちのペースでいいよな」

「うん」

言葉が伝えられなければ、こうしてまたボールを君に送る。

これが僕らの気持ちのキャッチボールだから。

幼い頃に知った、感情表現の1つだから。









「空」

「なに?」









「    だ」

耳元でささやかれた言葉に空は驚いて体を硬直させたが

すぐに全身の力を抜き、太一を抱きしめ返す。



「私もだよ、太一      



おり文:君が愛しすぎるから不安が尽きない いっそ籠の中に留められたらどんなに幸せか
前後作に分かれての作品いかがだったでしょうか?
初めこれをアンソロ原稿にするつもりでした。…うん、長いね!笑
これでもいろいろカットしたんですよ。保健室とか、光空とかヤマト+太一とか。笑
なんだか最後よく分からない感じになってしまいましたね。すみません(汗
いつかリベンジしたいです! …でも喧嘩ものは当分勘弁です。ホント苦手…っ
最後まで付き合ってくださったかたがた、ありがとうございましたv
引き続き20万打感謝祭をお楽しみくださいv