20万打企画 Vol,5









Be affectionate to each other.









ピー!!

先生が笛を鳴らす。試合終了の合図。

同時にチャイムが鳴り響く。最終下校15分前の合図。

部活終了を知らせる2つの音色。









今日の部活の成果、明日に向けての内容などを完結に顧問は説明した後

生徒達はすぐさま制服へと着替える。

もし1秒でも最終下校の時刻を過ぎたら、部活動停止もありえる。

それだけは避けたかった。試合前であるから、なおさら。

普段通り、着替えを終え太一を待つ空。

太一もスネ当てをシューズと共にしまい、さぁ帰ろうと立ちあがったときだった。

「・・・げ」

「どうしたの? 太一」

「理科の、プリント忘れた」

鞄の中を漁るように、教科書の間やファイルの中、ポケットまで太一は探す。

「えぇ?! 明日提出よ?!!」

「おっかしいな。確かにしまったはず・・・」

思い当たる場所全てを探すが、見つからない。空も協力するがやはり見つからない。

諦めた空は、小さく溜息をついた。









「私先生に言って校舎に入る許可取ってくる」

「マジ?」

「マジ。だって無いと困るでしょ?」

聞かれなくても答えは決まっている。困るのだ、プリントがないと。

あの八神太一が忘れたことに気づくほど、これは重要なプリントだったのだ。

思い出したのはいいが、忘れてきてしまったのでは意味はないが。

「悪い、空!」

素直に太一は空の行為に甘えることにした。

しょうがないわねぇ、と空は呟き、満更でも無さそうな表情で顧問のもとへと向かってゆく。

その間に太一はプリントを探すために引っ張り出してしまった荷物を再びエナメルバックへとしまった。









時刻は既に、最後のチャイムがなる2分前。

太一が仕度を終え空のもとへと向かう。

彼女はちょうど顧問に「ありがとうございます」と頭を下げているところだった。

「なんだって?」

「良いって」

簡単にそれだけ言うと、後から顧問が「武之内が一緒だから許可したんだからな!」と強く言う。

「どういうことだ?」

意味がわからないという表情の太一に、私も良くわからない。と空は答える。

とりあえず、学校の中に入っていいらしい。許可を取ったから部停にもならないはずだ。

空と太一はげた箱へと向かっていった。

「来月から部長になるんだから、忘れ物なんてするなよ!」

そんな顧問の声を聞きながら。









「そーいや俺、部長なんだっけ」

「そうよ。しっかりしてよね!」

げた箱の中に靴をしまい、上履きを取り出す空。

それに対し、太一は上履きを出すことはなかった。

空は驚いて目をぱちくりさせながら太一を見る。彼女のそんな視線に、彼も気づいた。

「だってめんどくせぇし」

「靴下汚くなるわよ?」

「平気だって。今日大掃除で、ワックスがけしてたろ? ピッカピカじゃねぇか」

確かに太一の言うとおりではある。

それでも、いくら放課後で他の生徒はおらず、ワックスをかけたばかりで綺麗な廊下でも

裸足で歩くなど空にはできない行為なのであった。









キーン コーン カーン コーン

「あ、チャイム」

「最終下校だな」

教室へと向かう階段をのぼっている途中、2人はその音を聞いた。

太一は学校内でこの音を聞くのは初めてだった。

どんなにピンチな時でも必ずこの音は学校外で聞いている。

0.何秒差でセーフだったときもある。

それはある意味「責任感」に近い感情であった。

自分が1秒でも遅れれば、部活動が停止になり、みんなに迷惑がかかる。

練習が無駄になる。努力が無駄になる。時間が無駄になる。

そんなことにならないようにするため、これだけはどうしても守らなくてはいけない規則。

運動部にとっては学校の他のどの規則よりも、これが厳しく、そして重要に感じていた。









一方空は、生徒会の仕事や先生の手伝いなどを行っていたため

このチャイムを学校内で聞く、という経験が何度かあった。

だから顧問の先生は、自分が一緒なら良いと言ったのだろうか・・・?

脳裏でうっすらと浮かんだ先程の問の答え。

つまり、太一を見張れ、と?

信頼しているのかしていないのか。いや、もしかしたら遠回りに気を使ってくれたのかもしれないけれど。

やっぱり先生の考えというのは理解できないものであった。









「教室到着」

「引き出しの中?」

「おぉ!」

鞄を机の上に置き、引き出しの中を漁る太一。

「急いでね」

許可は取ってあるが、あまりよい気分はしない。

日だって沈み始めている。窓から差し込まれる夕焼けは、やがて夜空と月明かりへと変わっりゆく。

電気をつけた方が良いだろうか、と空は想ったがやめた。

プリント1枚取りに来ただけだ。そこまでする必要はないだろう。









「あった?」

しかし、太一は予想以上に時間がかかる。

「いや、みつかんねぇ・・・」

おっかしいなぁと呟きながら一生懸命引き出しの中を覗く。

彼の斜め後ろの席・・・空は自分の席に荷物を置き、彼の元へ近づこうとした。

したのだが









「キャッ?!」




「空?!!」









ワックスをかけたばかり。

大掃除をしたばかり。

そんな床は、当然普段より滑りやすくなっていて。

ツルッと見事に空は足を滑らせ、背中から転んだ。見事に。









「・・・ッ!」

「大丈夫か、空!」

足を滑らせ、転び、本来なら頭を打ってもおかしくなかったのに

痛みは背中にしか伝わってこなかった。

とっさに閉じてしまった瞳を、空はゆっくりと開く。目の前・・・とても至近距離に太一が居た。

「太一?!!」

「どっか強くうってねぇか?! 頭とか、大丈夫か?!!」

自分よりも慌てているように見える彼。

空は即座に状況を判断した。









足を滑らせた自分。

後に転びかけ・・・いや、実際に転んだのだけれど。

彼が自分の頭を庇うように腕を下敷きにしてくれた。

なら、なぜ太一まで自分の上に覆い被さるように転んでいる?

「折角格好良く助けようとしたのに、一緒に転ぶなんてかっこワリィ」

自嘲するように太一は言う。

そういうことか。何となく、納得がいった。









数秒の無言の時間。

これほどお互いの距離が縮まっているのは、初めてだ。

ドキドキ

不思議なくらい心臓が音をたてる。相手に聞こえてしまうのではないかと

太一と空はお互い同じ事を考えていた。

ドキドキ

どこからくる感情なのだろう。

何をすれば収まる気持ちなのだろう。









目の前に、好きな人がいる。

好きだと伝えあう愛しい人がいる。

それなのに満たされない気持ち 満足のいかない欲望

何をすれば、この気持ちは満たされる? 満足する?









「なぁ、空」

先に口を開いたのは太一だった。

「なっ、なに?」

慌てたように空が返事をする。太一は一瞬、続きを言うことを躊躇っていたが

やがて決心したのかゆっくりと言葉を発した。









「俺、キスってやつ、してみたい」

「!!」

空は一瞬、心臓が飛び出るかと想った。

ドキドキ ドキドキ

先程よりも何倍も早く、心臓が動く。

「もちろん、空が良いなら・・・だけど」

太一はそんな彼女を見て否定の意味だと想ったのか、慌てて付け足した。









い や ?

そんなことはない、と空は自分の中で言葉を繋げる。

もし嫌ならとっくに彼を突き飛ばしている。離れて、と拒んでいる。

この10cmともない距離を保てずにいる。

なら、このドキドキは?

好きという言葉だけでは満たされない気持ち。今求めているもの。

それはきっと、彼と同じ。









「いや、じゃない」

「え?」

「だから・・・いい、わよ」

そっと視線を逸らして、恥ずかしそうに空は短く答えた。

太一はすぐに理解できず、空の返事をくり返し呟き、そして固まった。

「え? い、いいのか?」

「だからいいって言ってるじゃない」

恥ずかしいんだから何度も言わせないでよ、と空は言う。

わ、悪ぃ! と太一は即座に謝罪した。









「それじゃぁ空、こっち向いて」

「ん・・・」

恥ずかしさのあまり逸らした瞳を再び太一へと向ける。

ほぼ無いに等しい互いの距離。

それが今、完全に無くなろうとしている。









「そら・・・」

小さな声で囁きながら、太一は距離を縮めた。

「た、いち・・・」

空は彼の声より更に小さな声で太一の名を呼び、そっと瞳を閉じる。









時が止まった。

少なくとも、2人はそう感じた。









重ねていた時間はどれくらいだろう。

もしかしたら、2、3秒かもしれない。1分かもしれない。

その感覚が分からない。

時間が止まり 音が無くなり 感じるのはお互いの温もりだけ

唇から伝わってくる温かさ

重なった肌から感じる温かさ

吐息 鼓動 触れる髪 重なる腕 ぶつかる脚

何もかも感覚が無くなる。無の刻。









やがて、どちらともなくゆっくりと離す。

そっとと開かれた太一の瞳に、大人の男性を重ねた空は、更に心臓をドキドキさせる。

しかし、それと同じ分先程先に瞳を閉じた空に、大人の女性を重ねてドキドキした太一。

お互いその行為は初めてだった。

言葉にできない感触。

初めて

だけれど、何故だか懐かしくて。もう1度、もう1度だけ・・・









心が通じ合っているかのように2人とも、再び瞳を閉じた。

再度、時間を止めようとしたその時。

コツコツコツ

『?!!』

廊下から足音が聞こえ、2人は慌てて距離を取った。

空の脇に、太一も倒れ込む。立ちあがれば良かったのかもしれないが、彼の腕は未だ彼女の頭の下。

もし無理矢理振り払ったりでもしたら、庇った意味が無くなってしまう。

足音はやがて、教室の前を過ぎていった。

「行った・・・か?」

「う、うん。行った」

ドキドキ

止まらない心臓の音。きっと今、顔はまっ赤だ。

外が夜空になり、月が顔をだす。雲が多くて、月明かりは少ない。

教室が暗くて良かったと、2人は思った。恥ずかしくて、顔が林檎のように赤いのがばれない。









「か、帰るか! 立ち上がれるか?」

太一の腕が促すように空を床に座らせる。

解放された彼の腕。先に立ちあがり、そして利き手を彼女へと延ばす。

「ありがとう。大丈夫、背中をちょっと打っただけだから」

その手を取り空も立ちあがった。

いつの間にか、廊下も足元が見えないほど暗くなっている。









「プリントは? 見つかったの?」

「げ、忘れてた・・・ッ!」

振り出しに戻る、だ。今度こそゆっくりと、転ばないように空は太一の席へと向かった。

そして2人で協力し、全ての教科書を取り出して探してゆく。

結局、例のプリントは3ヶ月分の献立表と共に、国語のノートに挟まっていた。









「何で国語のノートに献立表が挟まってるのよ」

「だって国語って4時間目が多いだろ? だから、授業中にチェックできるようにって」

教室を出て、靴に履き替える。昇降口を出れば、もうそこには人影はない。

教師の車も、半分以上無くなっていた。

「授業中になにやってるんだか」

「だって気になっちまうんだって! んで、献立表は絶対に無くさないから

絶対になくしちゃいけねぇこのプリントもここに挟んだんだ」

見つかってから推理し納得しても仕方がない。

それでも太一は満足したのか、腕を組みうんうんと頷いていた。









「ま、見つかって良かったけれどさ」

「つき合わせちゃってゴメンな。家まで送ってく」

「え? い、いいよ。ちゃんと帰れるわよ?」

でも危ないだろ、とほぼ強制的に太一に送ってもらうことが決定した。

そもそも2人の家にさほど距離はない。あまり気にするほどのものではないのだ。

一緒に帰るのなんていつものことでもある。

それでも こんなに心臓が ドキドキするのは・・・









やっぱり俺   空のこと好きなんだなぁ









やっぱり私 太一のことすきなんだなぁ




お互いに愛し合っている。改めて確認させられた、太一と空であった。



おり文:初めて重ねた温もりは 言葉とは別の君の愛
とあるイラストをみたら書きたくて書きたくて書きたくて仕方が無くなった話し。
ちょっと補足すると、2人は中学2年生。時期は秋頃かな?
太一は部長になることが決定していて、多分副部長は空・・・
つき合ってはいるけれど、キスは経験無かった。そんなお話しでしたー!