20万打企画 Vol,34









She cast him an upward glance.









「学ランを貸して欲しいの」

いきなりやってきた彼女の、唐突な発言に太一は両目をぱちくりさせた。

「空?」

「だから、学ランをね・・・」

「いや唐突に言われても意味がわからねぇって」

八神家玄関前。両手を後に組み少しだけ俯く武之内空。

とりあえず中に入れよ、と太一は彼女を促した。









「んで? 何で学ランなんか貸してほしいんだ?」

第一俺、明日も普通に学校行くんだけど。

できたてのホットココアを空に渡し、彼女の隣・・・ベットサイドに座り込む。

「うん、ごめん。説明不足だったね」

あのね・・・と空は言葉を紡いだ。数回温かいココアを口に含みながら。









「私のクラスね、文化祭で「学ラン喫茶」をやることになったの」

「学ラン喫茶?」

「うん。なんか、女子も男子も関係なくみんな学ランを着てる喫茶店」

あぁ、なるほど。と太一は納得しながらココアを一口。

文化祭は衣装自由だ。浴衣を着るクラスもあれば、制服のままのクラスもある。

王道はクラスTシャツで、ほとんどの場合希望した衣服は採用される。

ただ例外として、以前水泳部が希望した“スクール水着”はあっけなく却下されたけれど。









「てことは、文化祭当日に貸せばいいってことか?」

「うん。太一のクラス、クラスTシャツ作るんでしょ? だから、大丈夫かなって」

図々しいことをお願いしてしまっただろうか、と空は縮こまる。

しかしそんなこと全く気にしていないのか、太一の表情は普段通りだった。

「なら別にいいぜ。ちょっと待ってろ」

言うなり太一は立ち上がり、空の手元から空っぽになったカップを回収する。

自分のそれと共に机の上に置き、クローゼットから制服を取り出した。









「ただし、条件が1つ」

「条件?」

なーに? と空は太一を見上げた。

「今からこれ着ること」

「え?」

「他の奴に見せる前に、俺だけに見せてくれよ。それが条件だ」

言いながら太一は、上着とズボン、それからYシャツを空に渡す。

「そんなことでいいの?」

「おう」

受け取った自分のものより大きめの制服。重たい学ラン。









「わかった。着替えるからちょっと出て行ってくれる?」

「手伝ってやろうか?」

ニヤニヤと笑う太一。すぐさま空は怒って立ちあがった。

「バカ!!」

彼女の顔は耳までまっ赤である。

「冗談だよ。終わったら呼べよ?」

先程机の上に置いたカップをてにし、太一は部屋から出て行った。









「もぉ!!」

閉ざされたドアに文句を1つ。

そして再び、手元にある彼の制服に目を落とす。

・・・。

これに、着替えなくては。その為にはまず服を脱がなくては。

妙に気恥ずかしくなる空。

ここには誰もいないけれど。けれど、彼氏の部屋で服を脱ぐ。

その響だけで、空は恥ずかしくなった。









そしてふと、我に返る。

そんなことを気にしている場合ではない。太一は廊下で待っているのだ。

自分の部屋を占領されて、寒い廊下で待っている。

空は邪念を払うように首を振った。

早く着替えて太一を呼ばなきゃ!

そそくさと、それでもやはり恥ずかしくて部屋の隅の方で空は着替えを始めた。









数分後。

「着替え終わった、わよ」

「おぉ。入るぞー!」

ドアが開かれる。そこには学ランを着た空が立っていた。

「・・・」

「・・・何か言ってよ。恥ずかしいじゃない」

空はそっと太一から視線を逸らす。

彼の瞳は彼女に釘付けだった。









うなじが露わになっている首もと。

第1ボタンが外されていて、見えかけている胸元。

指の先すら見えないほど長い袖。

ぶかぶか。そんな言葉がピッタリの空の格好。









全てが、太一をそそった。









「・・・やっぱおまえ、それ着るの禁止」

「えぇ?!」

驚いて空は太一との距離を縮める。

ドキッと彼の心臓が飛び跳ねた。

「どうして?! ちゃんと言われたとおり着たじゃない!」

空は上目遣いで太一に視線を向けた。

その瞳には怒りよりも、哀しみの方が含まれているように見える。









「何でって・・・何でもだよ!」

「もう! 太一わけわからない!! ならいいわよ、ヤマト君に借りるから!」

ふんっ! と空は太一に背を向け、自分の服を取りにベットへと向かう。

しかし太一は空にそれをさせなかった。彼女を後から強く抱きしめる。









「ふざけんな。ヤマトの学ランなんか着させられるか!!」

「ちょっと、離してよ、太一!」

「ヤダね、絶対に離さねぇ!! それに、ヤマトのクラスは制服のままじゃなかったっけ?」

「なら光子郎くんに借りる!」

「どっちも同じだ!!」

怒鳴りつけるような太一の声に、一瞬空はビクリと身体を震わせた。









「太一・・・?」

「お前、わかってんのか? 俺がなんでこんなに慌ててるか」

「わからないわよ。だって太一、何も言ってくれないじゃない」

それもそうか、と空の背から彼の声が聞こえる。

もぉ、と空は溜息をついた。









「見せたくなくなった」

「え?」

落ち着きを取り戻した太一の声が、空にゆっくりと感情を伝える。

「初めは俺が最初に見られればいっかとか想ってたけど。

でもいざ見たら、他の奴になんて見せたくなくなった」

それは醜い独占欲。

けれど、抑えきれない感情。









「なによ、それ」

「しょうがねーだろ、本音なんだから」

太一の手がゆっくりと学ランの第2ボタンを外す。

彼女の白く綺麗な肌が、うなじが、更に露わになった。

「知らなかったんだよ。学ランが、こんなにすげぇもんだなんて」

「あっ!」

そっと彼は、彼女のそこに唇を寄せる。

「たい、ち!」

「つーか気づかないうちに空、すっげぇ成長してるし」

そっと今度は、彼女の脹らみへと手を伸ばす。

慌てて彼女は彼の手に自分の手を重ね、それ以上悪戯するのを防いだ。









「太一!!」

「・・・本気でしようとなんて想ってねぇよ」

再び彼の腕は彼女の腰に回される。

どこにも隙間がないほど、太一と空は密着していた。









「けど、誰にも見せたくねぇって想ったのは本気だ」

「・・・だけど、仕方がないでしょ? もう決定しちゃったことなんだから」

「わかってるけど、よぉ」

たとえば空のクラスにヤマトが出向いたら。これを見たら。

あいつだってきっと・・・









「俺、空のクラス見張ってようかなぁ」

「はぁ?! 何言ってるのよ!」

「いや、これは本気で・・・」




見られたことに感謝しつつ、見せたくないと独占する。

太一の苦悩は文化祭終了まで尽きそうになかった。



おり文:俺だけが見られる君が欲しい
もともと考えてあったネタに
太光イラストを見てときめいたうなじキスネタでした。笑
実はイラスト(それもギャグチック)だけならヤマ太と太光も好物ですv