20万打企画 Vol,17





He held her close.





「悪いな、光司郎。いきなりつきあわせまちって」

「ちょうど近くにいましたから。気にしないでください」


図書館で調べごとをしていたら、珍しく太一さんからメールが入った。

それは簡単な文章で、図書館近くのカフェにいるけどでてこれねぇか

それだけの内容だった。

珍しいな、と思ったけれど少し休憩をしたい気分でもあったし

そのカフェならここから歩いて5分くらいだ。

今から行きます、と簡潔に返して僕はその場所へ向かった。






そこで待っていた太一さんは「よう」と軽く手を上げる。

何か頼むか? と聞かれて、僕は席に荷物だけ置いてカウンターへ向かった。

太一さんと同じ、アメリカンコーヒーを持って僕は席へと戻る。

太一さんと違って僕はブラック派で、よくんなの飲めるなと苦い顔をされる。





「ところで、急にどうしたんですか?」

僕はちらっと脇のベビーカーを覗き込む。

彼と、空さんのお子さん。“ひなた”ちゃん。

確か今1歳…半くらいだったろうか。

春の暖かい日に産まれた、女の子。






「空が病院に行っててさ。ひなが変な病気にかかったら嫌だかつって

俺たちはここで時間つぶしてんだ」

今はぐっすり眠っている自分のこのことを太一さんはひなと呼ぶ。

ひな、ひなと彼が呼ぶたびに彼女は嬉しそうに笑うのだ。

「空さん、体調でも悪いんですか?」

病院とはあまり良い響きではない。

尋ねれば、太一さんは“診断だ”と意味深に微笑んだ。






「そういう光司郎は、図書館でなにしてたんだ?」

「ちょっと気になる事がありまして。調べごとです」

「仕事?」

「いや、どちらかといえば個人的な趣味です」

学生が終わってもお前は偉いなぁと太一さんが苦笑しながらコーヒーを飲む。

そんなこと無いですよ、と僕は苦笑した。





そのまま他愛の無い話を繰り返していると

ぱちり、とひなたちゃんが目を開いた。

「ん? どうした、ひな」

優しく髪をなでると、ひなたちゃんはすぐに目を閉じる。

泣かないで良い子だなと僕は小さく微笑んだ。

太一さんはゆっくりとベビーカーを揺らし、眠りにつこうとしている彼女をあやす。






「なんだか、もう立派なお父さんですね」

ひなたちゃんの寝息が聞こえてきたのを確認して僕は太一さんにいった。

彼が彼女に向けている暖かいまなざしは完全に“父親”のものだ。

そしてまた僕のほうに振り返す。

その顔は、もうあのころとは違う。大人の、男の人。





「そうか? まぁ、さすがにな」

可愛いぞ、子供。

お前らも早く結婚しちゃえよ

軽く言われて…だけど、普段のからかい口調より全然重みのある言葉に

僕はただ苦笑する。




と、そのとき。

太一さんの携帯がいきなりなり始めた。

「っと、悪い」

もしもしと口を開いてから、うんうん、どうだった? と軽い口調。

相手は空さんだろうなと思いながら僕もコーヒーを口にいれる。

すると、唐突に太一さんは、うっしゃぁ!!! と声をあげた。

驚いてコーヒーを吹き出してしまいそうなほど大きな声で。

周りの人たちも太一さんに注目する。

だけどそんなこと気にしないかのように…いや、気づいていないのだろう。

太一さんは良かっただとか、早く来いだとか、待ってるだとか言葉を並べて

そして再び、最後に見たことも無いような笑顔で「ありがとな」とだけ言って電話を切った。






「空さん、ですよね?」

子供のようにおおはしゃぎしていた太一さんに尋ねてみる。

さっきまで僕より全然大人の人に見えたのに、今はあのころと変わらない太一さんだ。

やっぱりこの人は変わらないなぁとなんだか笑ってしまった、





「あぁ、空だ。結果が出たんだよ」

「結果?」

そういえば診断だとか言っていたような。

尋ねれば太一さんは子供のようにピースをしながらいった。






「2人目だ」

「…そうなんですか?! うわっ、それはおめでとうございます!」

その意味が分からないほど、僕も子供ではない。

他人のこととはいえ、やはり新しい命の誕生は嬉しいものだ。

おめでとうございますといえば、太一さんはやっぱり父親の顔でお礼を言った。





「うぅ…」

「あ」

「お?」

今度はひなたちゃんが、声を出して目を覚ます。

泣くことが仕事の彼女は懸命に声を上げ、そしてそんな彼女を太一さんは抱き上げる。






「どうした、ひな。お前も兄弟の誕生が嬉しいのか?」

お姉ちゃんになるんだぞ、ひなた。

きっと空みたいないい姉ちゃんになるぞ、お前。

彼は彼女をひしと抱いた。

その言葉に反応したかのように彼女はみるみる笑顔を浮かべる。






「おめでとうございます。

おめでとう、ひなたちゃん」





僕がそっと髪をなでると、彼女は「あーうー」と可愛く返事をくれた。

お姉ちゃんになる彼女からの、立派なお返事だった。



休憩時間に隣に座ってた男性の方がずっとお友達とゲームの話をしていたのに
隣にいたベビーカーに乗ってるお子さんが目を開けた瞬間優しいまなざしになったんです。
それでそっと髪をなでてあげると、赤ちゃんすぐにまた眠りについたんですよ。
すんごくほほえましい光景だなぁなんて。